がんばらない、オンナひとり旅のススメ~旅を楽しむ5つの心得~

「いいホテル」「いいレストラン」で過ごす「素敵な旅」にとらわれ過ぎていると、ひとり旅は失敗しがち。初心者でも楽しめるひとり旅の心得を「できるだけがんばらないひとりたび」の著者、田村美葉さんに教えていただきました。

メインビジュアル:がんばらない、オンナひとり旅のススメ~旅を楽しむ5つの心得~

この方にお聞きしました

田村 美葉さん

東京エスカレーター主宰・心配性トラベラー。 1984年生まれ。石川県金沢市出身。東京大学文学部卒。旅の初心者のための旅行情報サイト「できるだけがんばらないひとりたび」にて、安心・安全・快適に自分らしい旅がしたい人向けに定期更新。一方、大学入学を機に上京して以来、都会の景色に魅了され、エスカレーター専門サイト「東京エスカレーター」を立ち上げる。テレビ番組「マツコの知らない世界」で取り上げられ、一躍話題に。

田村 美葉さん

旅行が苦手だった「心配性トラベラー」が「ひとり旅」を続けている理由

「Go to トラベル」がスタートし、お得に旅が楽しめるこの時期。行きたくても大人数での旅は気おくれするし、そもそも友だちと都合が合わせにくい。でも、どこかに出かけたい。

「よし、ひとり旅へ!」と思いつつも、いろいろ不安で実行できない人もいれば、ひとり旅の経験はあるけれど「気づかれしちゃって楽しめなかった」という人もいるのではないでしょうか。

お話をうかがった田村さんも、素敵な旅を思い描きながら「この旅行パックの方が安い?」「あの店にいった方が得だった?」などコスパを意識した旅をし、旅行サイトの口コミ情報やSNSのコメントを見ながら「自分の計画は正しいのか、正しくないのか?」などあれこれ悩んで、ひとり旅を楽しめなかったときもあったそうです。

そんな田村さんに、今でも「ひとり旅」を続けている理由をうかがいました。

―旅に苦手意識のあった田村さんが、「ひとり旅が楽しい」と思うようになったきっかけは何だったのですか? 

田村 「お金をあまり使わない旅行するのが賢い」とか「効率よくグルメや観光名所、絶景を巡る」というように「○○をしなきゃ」みたいなのがプレッシャーだったんです。リフレッシュのために旅に出たのにヘトヘトに疲れて帰ってきたり、「〇〇に行けなかったなぁ」と後悔するこもあって…。でも、ある時から「私は絶景とか別に好きじゃないな」「もともと、グルメでもない」と気づいて、旅先ですることを減らしていったら、旅の目的が明確になってきました。

私の趣味はエスカレーターを見ることなので、国内外のエスカレーター巡りをして旅を続けていくうちに、「船が好き」「山より水辺の景色の方が癒される」ということがわかってきました。自分の好きなものに特化して旅の予定を組むようになると、自然と行きたい場所の情報を集めるようになり、次々と行きたい場所が見つかります。だから、今でも旅を続けていられるんだと思います。

旅行に行きたくて、出かけるというよりも「あそこに行きたい」「あの船に乗りたい」という目的があって旅をしている感じですね。

田村さんが好きなエスカレーター「梅田スカイビル」

▲田村さんが好きなエスカレーター「梅田スカイビル」
「超高層ビルの地上35階と39階をつなぐ空中ロングエスカレーター。そんなのエレベーターで上までいっちゃえばいいじゃんと言わずにこれを作ってくれた大阪の懐の深さにただただ感謝したい。2018年再訪。夜の雰囲気も猛烈に好き。」―田村さんの運営サイト「TOKYO ESCALATOR」より

―ひとりで食事をしていると「あの人寂しそうと思われているかも」とか、他人の目が気になります。田村さんは、気にならなかったですか?

田村  確かに、そういう場合もありますね。ひとりで食事をしていると、「どこから来たの?」とかめちゃくちゃ話しかけられて、「この店失敗したな」と思うこともあります。それと、遊園地のアトラクションに乗りたいと思っても、ひとりで乗っていると寂しくなっちゃう。ひとり旅に慣れていないうちは、みんなで楽しむことが前提の場所にはなるべく近寄らない方がいいかもしれないですね。

がんばらない、オンナひとり旅のポイント①SNSがあれば、寂しくない!

ここからは、初心者でも楽しめるひとり旅のポイントを教えていただきましょう。

―ひとり旅だと「寂しい」のは避けられないですよね?

田村 私は、SNSのおかげで海外でも「ひとりで大丈夫」って気持ちになれました。「これ、すごくおいしかった」「感動した」とか思ったことを伝えられる人がそばにいなくても、SNSにその時感じたことや起こったことをつぶやけば、誰かが反応してくれますので。

―共感で、寂しさがなくなる?

田村 旅行することを誰にも言わないままソウルに行ったとき、平日の旅行ということもあって、SNSでつぶやくのは控えていたんです。思ったことや感じたことを誰にも話せずに過ごしていたら、気持ちがどんよりしてきて「すっごく寂しいんですけど…」という感じになってしまって…。その時に、思っていることを発信して反応をもらうことも大事なんだなって痛感しました。

がんばらない、オンナひとり旅のポイント②ガイドブックのモデルコースに頼る

―初めてのひとり旅のプランづくりは、何から始めたら良いでしょうか?

田村 「行きたい場所やしたいことは決まっていないけれど、旅には出たい」って思うときもありますよね。そんなときは、「るるぶ」や「まっぷる」などのガイドブックに掲載されているモデルコースを、律儀になぞってみることをおすすめしています。

地元の人しか知らない店とかインスタ女子に人気のスポットを調べて、「誰も知らない私だけの旅」みたいなプランを最初から目指そうとすると大抵失敗します。まずは、モデルコースをたどってみてください。モデルコースで紹介されている美術館がすごくよかったり、建築に心惹かれたり。コースをたどるうちに自分の好きなことがみえてくることがあります。

―ガイドブックのモデルコースって観光スポット、食べ物、乗り物などその土地のおすすめのものを網羅していますもんね?

田村 日常でやっていること、好きなことを旅先で楽しむのもおすすめです。普段から美術館に行くのが好きだったり、本屋さんやパン屋さん巡りが好きならそれを旅先でもやってみてください。歴史あるお寺でも興味がなければ感動しませんし、家で過ごすのが好きな人がリゾートでシーカヤックをひとりでやっても楽しめません。私は沖縄に行っても、海のアクティビティはせずに建築巡りをして楽しみました。

旅先で何カ所か行きたい場所を決めつつ、そのなかで「一番行きたいところだけ行ければいいや」くらいの気持ちで出かけ、あとは現地で行きたい場所が見つかったらそちらに行けばいい。ガチガチに予定を組んでしまうより、そのくらいゆるいプランで行った方が楽しめます。

がんばらない、オンナひとり旅のポイント③国内旅行はボストンバッグがおすすめ

―旅慣れていないと、あれこれ持っていこうとして荷物の量が増えてしまいます。

田村 「荷物を減らすことがえらい」なんて思わなくていいと思います。私も「持ってきたものの無駄だった」ことはたくさんありますが、「あれ、持ってくればよかった」と後悔するよりいいと思います。以前、下着を買うのにユニクロを探し回って「ムダな時間を過ごしちゃったな」って思ったことがあって…。必要だと思うものは、全部持っていった方がいいと思います。

―スキンケア、化粧品とかも入れ忘れることが多いです!

田村 私は毎回旅行用に荷物を作るのが面倒なので、普段使っているものと同じセットを2つ用意してひとつを旅行用にしていました。3~4日分くらいのセットを作っておいて、その一式を持っていくっていう感じですね。メイクも、眉、アイライン、リップを2セット用意していました。そうしないと絶対忘れるんです。

毎日使っている化粧品やスキンケアなどアメニティ類をまとめた旅のセット
毎日使っている化粧品やスキンケアなどアメニティ類をまとめた、田村さんの旅セット。


―ホテルや旅館のアメニティは使わないんですか?

田村 はい。自分の肌に合うスキンケアではない場合もありますし、場所によって「○○はあるのかな?」と気にするのが面倒っていうのもあったので、持っていくようにしています。現地で買えばいいって思うんですけど、現地で買うと荷物がかさばるんです。

―荷物を入れるのにキャリーとボストンバッグ、どちらがいいいですか?

田村 私は、国内旅行だとボストンバックにしています。国内旅行の場合、ホテルに行くまでに駅周辺を巡ったり途中下車したりするため、荷物はコインロッカーに預けやすいサイズの方がいいんです。

―キャリーが入る大きさのコインロッカーって少ないし、金額も高いですよね。

田村 小さい駅だとキャリーが入るサイズのコインロッカーがない場合もあるんです。一番小さいコインロッカーでも入れられるサイズのバッグがいいと思います。

がんばらない、オンナひとり旅のポイント④「○○を食べるべき!」をやめてみる

―旅先では、その土地のおいしい物をアレコレ食べようとがんばりがち。その土地の有名店で食べたいけれど、ひとりでは店に入りにくいってことがあります。

田村 慣れていないと、夕食をひとりで食べられる店を選ぶのはむずかしいんです。だから、お店で食べることにこだわらず、テイクアウトをしてホテルで食べるのでもいいと思います。他人の目を気にすることなく食べられますし…。日本の場合、海の近くなら名店でなくても海産物はおいしいので、「名店で食べなくちゃっ」て思わなくても大丈夫ですよ。

日本人は栄養バランスの整った食事にこだわりがちですが、2~3日間バランスの悪い食事が続いても、倒れることはありません。1日3食にこだわらず、レストランに入って食べるのもやめて、食べたいなって思ったものをみつけたら食べるというのでもいいと思います。私は香港や台湾に行ったとき、歩きながらおいしいものをみつけて、1日5食になっちゃったこともありました。

―確かに…。自宅で3食しっかり食べていないのに、旅先では「食べないともったいない」って気がして無理に食べてしまいます。

田村 大阪に行ったときは、ずーっとたこやきしか食べないっていうたこ焼き屋巡りをしました。あれもこれも食べようと、計画を立てるのは大変なので、こういう方法でその土地のグルメを楽しむのもいいと思います。

―そんな発想なかった! グルメラリー的な旅も楽しそう! そのゆるさがひとり旅を楽しむ秘訣なのかも。

田村 「あの土地にいったんだったら、○○を食べないと!」って言われたりもするんですけど、気にしないでじぶんが好きな物、食べたい物を選んだ方がいい気がします。

がんばらない、オンナひとり旅のポイント⑤初心者におすすめのエリアとお宿選び

―初心者がひとり旅をするのにおすすめのエリアってありますか?

田村 ひとり旅の場合は、東京、名古屋、京都、福岡などの都市圏がいいですね。交通機関が充実していない地方に行くのはおすすめできません。レンタカーを借りてグイグイ移動できる人はいいんですけど、大きな荷物を抱えながら僻地でのバス移動は大変です。離島などに行く場合は、離島内のホテルに数日間滞在する過ごし方を選んだ方が楽しめます。

県庁所在地のエリアであれば、路面電車やバスで観光地に行ける広島や岡山もいいですね。公共交通機関が充実している、札幌や仙台もいいと思います。

―宿選びのポイントは? ホテルや旅館をひとりで利用すると2名以上で利用するより、費用が高くなってしまいますよね?

田村 私は最近、ゲストハウス※1を利用することが多いですね。

―旅慣れていない人にはゲストハウスはハードルが高そうですが…。

田村 2019年にゲストハウスのオープンラッシュが起こって、カフェを併設していたり、キッチンが使えたりと、ホテルに泊まるよりおしゃれで過ごしやすい空間に泊まれる施設が増えました。私は、海外ではドミトリー※2には泊まらないんですけど、国内では利用しています。

―清潔で過ごしやすいんですか?

田村 古民家をリノベーションした施設もあって、おしゃれなカフェに住んでいる感じです。

※写真はゲストハウスのイメージです。
※写真はゲストハウスのイメージです。


―ゲストハウスを調べるのに便利なサイトはありますか?

田村 私は、定額制の住み放題サービスの「HafH(ハフ)」※3というサイトを使っています。5日間や10日間など滞在期間を選んで、その期間中は泊まり放題で利用できます。お試し利用として2日間から使えるサービスもあるので結構お得です。そこに掲載されているゲストハウスは、おしゃれな施設が多いですよ。

※1 ゲストハウス
ゲストハウスは、共用リビングを有した“シェアする旅の宿”。交流スペースがあり、一泊素泊まりひとり2,000円~泊まれる場所もある。 トイレ・シャワー・キッチンなどの設備は共用。かつては相部屋が多かったが、最近は個室のあるゲストハウスも増えている。

※2 ドミトリー
相部屋。二段ベッドを利用する。

※3 定額制の住み放題サービス「HafH(ハフ)」
東京近郊・箱根・沖縄・京都などのゲストハウスやホテルが登録されている。全施設Wi-Fi完備。 全施設Wi-Fi完備。世界約300の拠点・定額制住み放題。登録初月は無料で利用が可能。週末旅の利用には、施設を2日間利用できる「おためしHafH 3,000円/月(税込み)」(期間限定/終了未定)がおすすめ。ドミトリー利用が中心だが、個室を利用できる施設もある。
公式ウェブサイト→


―ひとり旅のガイドブックを見ると「airbnb(エアビーアンドビー)」がおすすめと書いてあったりしますが…。

田村 6名とか10名とかで宿泊する場合は「airbnb」は得なんですけど、ひとりではコスト高になります。「一棟貸し」「低価格」「キッチンや洗濯機が使える」などがアピールポイントなんですが、キッチン付きのホテルやゲストハウスの方がセキュリティ面でも安心です。それに、面識のない個人のオーナーさんと交渉には不安もあります。

―慣れていないのに加え、女性のひとり旅には「airbnb」の利用は向いていないんですね。

田村さんが、ひとり旅をして好きになった場所は?

―田村さんが国内でひとり旅をして楽しかったところ、好きになった場所はありますか?

田村 長崎ですね。長崎には路面電車があって、観光スポットを色々巡れるのと、私が好きなものがたくさんあるんです。「明治の産業革命遺産」が長崎にはすごくたくさんあるんですけれど、そこを巡るのが楽しかった。明治からあるグラバー園から見える目線の先に、今も現役で活躍している三菱重工の造船所が見えたりして、歴史がずーっと続いているってことを実感できるのが素敵だなって感じて…。長崎に行って初めて、歴史的スポットを見るのが楽しくなり、その後鹿児島の「旧集成館」を見に行ったりもしました。
 

グラバー園から望む、三菱重工の造船所。明治から現代へ、時代が続いている風景。
グラバー園から望む、三菱重工の造船所。明治から現代へ、時代が続いている風景。


田村 それと、長崎のグルメはひとりで食べるのに向いているなと思います。

―ひとり向きのグルメというと?

田村 夜、ひとりで店に入って簡単に食べられるもの。ちゃんぽんとかトルコライスとかですね。

―最後に、ひとり旅を始めてみたい人へアドバイスをいただけますか? 

田村 自分が好きなものがある場所を調べて、みつかったらそこに行ってみる。自宅から移動の範囲をちょっと広げるくらいの気持ちで計画を立てて、ホテルとか食べ物とかは、普段通りに過ごせればいいやって思うくらいがちょうどいいです。まずは、「素敵なホテルやレストランに行かなくちゃ」と考えるのを一旦やめることから始めてみてくださいね。


●「できるだけがんばらないひとりたび」
・著者:田村美葉
・出版:KADOKAWA 
・価格:1,540円(税込み)



旅をする前に知っておきたい51の心得を記した、ひとり旅用のガイドブック。ひとり旅をしてみたいと思っている人、かつてひとり旅をして失敗してしまった人にぜひ読んでいただきたい一冊です。

 


※記事の情報は2020年11月10日時点のものです。

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